痔は遺伝するか

時々、「親も痔があったので、遺伝でしょうか」と聞かれることがあります。今回は、痔に遺伝の要素があるのかどうか、また、痔になりやすい要因はどのようなものがあるか、この2点について解説します。

 

痔は遺伝・感染しない

痔は、遺伝によって発症するものではありません。

そうはいっても、親や兄弟にも痔があると「遺伝なのではないか?」と感じてしまう気持ちもわかります。実際には、遺伝ではなく、痔になるかどうかは環境の問題が大きいです。

なぜ家族内に痔になる方が多くなるのかというと、同居家族は食事や生活が似ているためです。全員が痔になりやすいような生活を送っているために、家族内で痔の方が多くなる傾向にあります。

 

痔ろう・肛門周囲膿瘍の場合は、細菌感染によって膿が出てしまっている状態ではありますが、お風呂などを通じて他人へ感染することはありません。痔ろうなどを引き起こす特殊な細菌があるわけではなく、人の体に元々存在する細菌が原因となっているので、過度に怖がらなくても大丈夫です。

ただし、痔ろうや肛門周囲膿瘍の場合は、入浴などで温めると腫れが悪化することがあるため、入浴はおすすめしていません。

 

痔になりやすい特徴や生活習慣とは?

痔の予防や症状緩和のために、「痔を悪化させうる生活習慣」を無くしていく必要があります。

以下の要因に当てはまるものがあれば、改善に取り組んだり、医療機関を受診してご相談ください。

 

・便通異常(便秘・下痢)

便秘、下痢といった便通トラブルがある方は痔になりやすいです。便秘では、いきむことで肛門に負担がかかっていぼ痔になったり、硬い便の影響で切れ痔になったりします。下痢は、便の回数が増えてしまうのが痔に悪影響です。とくに下痢は、痔ろうや肛門周囲膿瘍など、膿がたまるタイプの痔になりやすく、早めの改善が必要となります。

 

・座っている時間が長い

デスクワークで長時間座っている方、タクシーやトラックのドライバーなど、長時間座っていることが痔のリスクとなります。座っていることでお尻に圧力がかかり、肛門周囲の静脈の血流に影響するためです。

 

・運動不足

運動不足も、痔の原因となります。できるだけ日常生活の中で体を動かすよう意識してください。

運動をすることで腸の動きがよくなり、便秘が改善されやすくなります。運動によって全身の血流がよくなり、とくにいぼ痔の改善に有効です。

 

・アルコールをよく飲む

アルコールは、痔の発症にも悪化にも、どちらにも悪影響です。血管が拡張するため、肛門の静脈がうっ血し、いぼ痔の原因となってしまいます。また、アルコールを飲むと下痢を起こす場合もあり、あらゆる痔の原因となりえます。

 

遺伝しやすい大腸の病気

痔は遺伝しませんが、大腸の病気の中には遺伝するものがあります。

 

代表例の1つが、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)です。放置していると、ほぼ100%の確率で大腸がんへと進展します。10代から大腸にいくつものポリープができ始め、年齢とともにポリープの数がどんどん増える病気です。無症状のことが多いですが、腹痛や下痢を繰り返す方もいます。親がFAPの場合、50%の確率で子どもに遺伝します。

 

遺伝性の大腸がんとして、リンチ症候群も注意が必要です。家系内に、50歳未満で大腸がんや子宮体がん、胃がんなどを発症する方が多いです。日本人では、大腸がん全体の約1%がリンチ症候群といわれています。

 

まとめ

今回は、痔はが子どもへ遺伝したり、他人へ感染したりする病気ではないことをお伝えしました。「家族に痔の人がいるから」と過度に不安を感じる必要はありません。

似たような食事・生活習慣をしていることが多いため、家族内に痔を発症する方が多くなる傾向はあります。痔にならないよう、生活を整えることが大切です。

 

当クリニックでは、単に痔の治療をするだけでなく、便通のコントロールや生活・栄養指導にも力を入れています。痔に対して総合的なアプローチで治療を進めていきますので、痔かな?と思ったらお早めにご相談ください。