慢性胃炎

慢性胃炎とは

慢性胃炎とは、長期間にわたって胃粘膜の炎症が続いている状態のことをいいます。慢性胃炎は、炎症の原因となる特定の病気が無いにも関わらず、胃の不快感や吐き気などの症状がみられることが特徴です。炎症とは赤く腫れたりただれたりしている状態ですが、こうした症状を検査で確認した上で慢性胃炎とする場合もありますし、後述する原因や患者さんの訴える症状から慢性胃炎であるとすることもあります。
慢性胃炎の状態を長期間放置していると、胃液を分泌する胃腺という組織が減り、胃粘膜が痩せて委縮してしまし、「萎縮性胃炎」という状態になります。萎縮性胃炎は、胃がんと診断された患者さんの中で、胃の状態として多くみられるものです。ただし、萎縮性胃炎が必ず胃がんに進んでいくということではありません。

慢性胃炎の症状

慢性胃炎で多くみられる症状は、みぞおち辺りの痛みや吐き気、胸やけ、もたれ、むかつきなどの胃部不快感などです。しかしこうした症状は慢性胃炎の人全てにみられるものではなく、症状が現れないケースもあります。
日本では2014年から検診の判定基準が変更され、胃のレントゲン検査(一般にバリウム検査として知られています)で「胃炎の所見あり」と判定されることも増えてきました。従来は胃潰瘍や十二指腸潰瘍瘢痕、ポリープ、粘膜下腫瘍など明らかな病気を示す結果が無い場合は、慢性胃炎の所見があったとしても「異常なし」という判定結果としていました。
なお、萎縮性胃炎になると胃液が分泌されにくくなり、消化不良を引き起こします。それにより胸やけやもたれ、食欲不振といった症状がみられるようになります。

慢性胃炎の原因

慢性胃炎の原因の大半は、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)の長期感染によるものです。
ピロリ菌は、全長3~5μmほどの大きさで、もとは土の中にいる細菌ですが、井戸水の中で生きていることがあります。ピロリ菌が混ざった井戸水を飲むことで感染し、その感染者が乳幼児に食べ物を口移ししたりすることで、感染が広がっていくと考えられています。一般的には4~5歳くらいまでに感染することが多く、ピロリ菌は胃粘膜に定着し、感染範囲を広げていきます。ピロリ菌の除菌治療を受けなければ、感染は一生涯続きます。
胃には強力な胃酸があり、通常はそこに入りこんだ菌があったとしても、死滅してしまうようにできています。しかし、ピロリ菌は特殊なウレアーゼという特殊な酵素からアンモニアを作り出すことで、胃酸からピロリ菌自身を守ることができます。このアンモニアとピロリ菌自体が出すサイトトキシンという毒素が、胃粘膜を攻撃して傷つけ、慢性的な(長期間に渡る)炎症を起こします。ピロリ菌により傷つけられた胃粘膜は薄くなり、委縮していきます。
このほか慢性胃炎には、「自己免疫性胃炎」や「A型胃炎」とよばれるものがあります。これらは、患者さん自身の免疫機能が、自らの胃の細胞を攻撃することで炎症が進んでいきます。胃の中心部分である「胃体部」に高度な委縮がみられ、通常の慢性胃炎にみられる十二指腸に近い「前庭部」には委縮がみられないという特殊な委縮パターンがあり、悪性貧血の検査で見つかることが多いタイプの胃炎です。
また、肝硬変や腎不全によって血液循環や栄養・代謝がうまく機能しなくなっていることで起こる慢性胃炎や、解熱鎮痛剤など非ステロイド性抗炎症薬による薬剤性胃炎なども、慢性胃炎に含まれます。

慢性胃炎の検査

慢性胃炎は、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ検査)で判明することが多い病気です。
慢性胃炎が確認されれば、ピロリ菌感染を疑い、検査を受けることをおすすめします。ピロリ菌感染の検査には、胃カメラ検査時に胃の組織を少しだけ採取して調べる検査、検査薬と呼気を利用する尿素呼気試験、血液や尿でピロリ菌に対する抗体を測定する検査、便でピロリ菌の抗原を測定する検査などがあり、これらを組み合わせて行うこともあります。
ピロリ菌感染は、委縮性胃炎の原因となります。萎縮性胃炎はさらに、胃潰瘍や胃がんと関連していることが分かっています。胃粘膜の萎縮の度合いは、胃カメラで直接確認する方法以外に、血液検査で調べることができます。さらに、血液でピロリ菌に対する抗体検査とペプシノゲンを測定し、その結果をA~Bの4分類で胃がんのリスク判定を行う「ABC検診」という検査もあります。

慢性胃炎の治療方法

慢性胃炎と診断されても、無症状であれば治療はせず、経過観察となります。症状がある場合は、その症状に応じた薬物療法を行います。
慢性胃炎の原因がピロリ菌感染によるのであれば、除菌治療を行います。除菌は、胃酸を抑える作用のあるお薬と抗生物質2種の計3種のお薬を1週間服用し、服用後に一定期間を空けて「除菌ができているかどうか」を判定する検査を行います。除菌できていなかった場合は二次除菌として、2種のうちの1種の抗生物質を別の抗生物質に変更して、3種のお薬を1週間服用します。服用後は一次除菌の際と同様に、除菌ができているかを判定する検査を行います。二次除菌までは健康保険が適用されます。