1. アルコールと発がんの関係性とは?
「お酒は百薬の長」と言われる一方で、近年の医学的研究ではアルコールががんのリスクを高めることが明らかになっています。世界保健機関(WHO)傘下の「国際がん研究機関(IARC)」は、アルコールを“グループ1の発がん物質”として分類しています。これはタバコやアスベストと並ぶレベルの「確実にがんを引き起こす物質」という評価です。
飲酒によるリスクは単純に「量」だけでなく、「飲み続けた期間」や「その人の体質」にも大きく左右されます。とくに日本人や東アジア人は、アルコールを分解する酵素の働きが弱い人が多く、同じ量でもがんになるリスクが高まる傾向にあるのです。
「自分はたくさん飲まないから大丈夫」と思っている方も、体質や年齢を含めて見直すことが重要です。がん予防の第一歩は、アルコールとの付き合い方を見つめ直すことにあります。
2. どんながんのリスクが高くなるのか?
アルコールが影響を及ぼすがんは、実にさまざまです。とくに以下のがんとの関連性が指摘されています。
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・口腔がん
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・咽頭がん
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・食道がん
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・大腸がん
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・肝臓がん
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・乳がん(女性)
とくに食道や口の中のがんは、アルコールが粘膜に直接触れることで細胞にダメージを与え、長期的にがんを引き起こすリスクが高まります。また、女性はホルモンバランスの影響もあり、少量の飲酒でも乳がんリスクが上がることがわかっています。
さらに喫煙や運動不足、不規則な食生活といった他の生活習慣と組み合わさると、がんのリスクは飛躍的に増加します。飲酒と喫煙の両方をしている人は、食道がんのリスクが何倍にもなるという研究結果もあるほどです。
3. アルコールの代謝とアセトアルデヒドの影響
飲んだアルコールは肝臓で代謝されますが、その際に「アセトアルデヒド」という有害物質が生成されます。この物質が細胞のDNAを傷つけ、発がんの原因になると考えられています。
問題は、アセトアルデヒドを分解する酵素「ALDH2」がうまく働かない体質の人が、日本人には約40%もいるということです。このような人は、アルコールを摂取するとアセトアルデヒドが体内に長く残り、がんのリスクがさらに高まります。
また、慢性的な飲酒は肝臓に継続的な負担をかけ、肝炎や肝硬変を経て肝がんに進行する可能性も。つまり、アルコールの代謝そのものが、がん発症に深く関係しているのです。
4. 少量なら飲んでも大丈夫?リスクの境界線
「たまに少し飲む程度だから問題ない」と思いがちですが、近年の研究では**“少量の飲酒でもがんリスクが上昇する”**という事実が明らかになっています。
たとえば、1日ワイン1杯程度(アルコール約10g)でも、乳がんリスクが上がると報告されており、「安全な飲酒量はない」とする見解が広がっています。つまり「飲まないほどリスクが下がる」ことが明らかになってきているのです。
また、体質や年齢、性別によってもリスクの大きさは異なります。自分の健康状態や家族歴なども考慮し、必要であれば医師と相談して飲酒習慣を見直すことが重要です。
5. がん予防のために今日からできること
完全にお酒をやめるのが難しい場合でも、日常生活の中でリスクを減らす方法はあります。
以下のような習慣を取り入れてみましょう:
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☑ 飲酒量を減らす努力をする
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☑ 週に2~3日の「休肝日」を作る
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☑ お酒を飲む目的が「ストレス発散」になっていないか見直す
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☑ 喫煙と飲酒の併用は避ける
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☑ 年に1回はがん検診を受ける
「禁酒」ではなく「減酒」でも十分に効果があります。たとえば「週に何日かはノンアルコール飲料にする」「1日の量をビール1本までに抑える」といった、無理のない工夫が健康につながります。
当クリニックでは、生活習慣改善や健康相談も受け付けています。飲酒による健康への影響やがん予防に関するご相談も、どうぞお気軽にお問い合わせください。
まとめ
アルコールは、少量であってもがんのリスクを確実に高めることがわかっています。特に代謝に関係する体質や生活習慣が関与し、一概に「このくらいなら大丈夫」とは言いきれません。健康的な生活を送るためには、日々の飲酒習慣を見直し、リスクを下げる努力を続けることが大切です。
監修医師 大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2020年10月大田大森胃腸肛門内視鏡クリニック開院、2024年12月東京新宿胃腸肛門内視鏡・鼠径ヘルニア日帰り手術RENA CLINIC開院。