1. 過敏性腸症候群(IBS)とは?
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、血液検査や内視鏡検査をしても明らかな異常が見つからないのに、腹痛や下痢、便秘といった腸の不調が長期間続く病気です。特にストレスや緊張を感じる場面で症状が強まることが多く、現代社会の多忙な環境で増加傾向にあります。
この病気は腸の動きや感覚が過敏になることが主な原因で、脳と腸の神経間の情報伝達が乱れていると考えられています。20代から40代の働き盛りの世代に多くみられ、日常生活や仕事、学校生活の質(QOL)を大きく下げることも少なくありません。
命にかかわる病気ではないものの、慢性的な症状が続くと精神的な負担が大きくなります。だからこそ、早めに適切な対処を行うことが重要です。
2. 症状のタイプと特徴
IBSは症状の現れ方によって主に4つのタイプに分けられます。
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・下痢型:急な強い便意や食後すぐの下痢が特徴。外出中にトイレの場所を気にすることが多いです。
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・便秘型:数日便通がなく、排便時に不快感や残便感が伴うタイプ。女性に多い傾向があります。
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・混合型:下痢と便秘が交互に現れ、腸のリズムが乱れている状態。日によって症状が変動します。
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・分類不能型:これらに当てはまらない、症状が不規則に変わるタイプ。
また、心理的ストレスや緊張が強くなると症状が悪化しやすいため、自分の症状の特徴を知ることが治療の第一歩となります。
3. 原因と悪化させる要因
IBSの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、腸の過敏性、腸の運動異常、自律神経の乱れ、ストレスが複合的に関係しています。
特に「腸と脳の連携の乱れ」が注目されており、腸は「第二の脳」とも呼ばれるほど脳と深く関わっています。精神的なストレスが続くとこの連携が崩れ、腸が過剰に反応しやすくなってしまいます。
さらに、脂っこい食事やアルコール、カフェイン、人工甘味料など腸を刺激しやすい食品も症状を悪化させる要因です。睡眠不足や生活リズムの乱れも影響を与えます。
IBSは単なる一過性の症状ではなく、体質や生活習慣とも密接に関わっているため、根本的な対策が必要です。
4. 診断と治療の流れ
IBSの診断ではまず、腸に明らかな異常がないか検査を行います。血液検査、腹部エコー、内視鏡検査(大腸カメラ)などで他の病気が隠れていないかを調べます。
診断がついた後は、症状の種類や程度に合わせて治療を進めます。薬物療法では整腸剤や消化管運動調整薬、ストレス緩和の薬が使われることがあります。また、「FODMAP食制限」と呼ばれる、腸内でガスや水分をためやすい糖質を控える食事療法も有効です。
治療には時間がかかることもありますが、根気よく自分に合った方法を続けることが改善のポイントです。
5. 「実は違う病気だった」というケースも
IBSと診断されたものの、実は「潰瘍性大腸炎」や「クローン病」などの炎症性腸疾患(IBD)だったというケースもあります。
特に以下の症状が続く場合は注意が必要です。
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・長期間続く下痢や腹痛
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・血便が出る
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・夜間の頻繁な排便
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・体重減少
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・微熱が続く
こうした場合は自己判断せず、内視鏡検査などの精密検査を受けることが大切です。若年層でもIBDの発症が増えているため、早期発見が重要となります。
6. 日常生活でできる対策
IBSの症状を和らげるには、日常のストレス管理が欠かせません。十分な睡眠時間を確保し、リラックスできる時間を作ることが大切です。呼吸法や軽い運動を取り入れて、自律神経のバランスを整えましょう。
食生活では刺激物や冷たい飲食物を控え、バランスの良い食事を心がけます。食物繊維は適度に摂取し、過剰な摂取でガスがたまらないよう注意します。食事は規則正しく、よく噛んでゆっくり食べることで腸への負担が減ります。
IBSは「治らない病気」ではありません。生活習慣を整え、継続的に対策を行うことで十分コントロール可能です。当院では管理栄養士による食事指導も行っていますので、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通の異常が慢性的に続く身近な病気です。はっきりした検査異常はなくても、症状は生活に大きな影響を与えます。腸と脳の連携の乱れを整えるために、ストレス管理や食生活の見直し、適切な治療が効果的です。お腹の不調に悩む方は早めの相談が大切です。
監修医師 大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2020年10月大田大森胃腸肛門内視鏡クリニック開院、2024年12月東京新宿胃腸肛門内視鏡・鼠径ヘルニア日帰り手術RENA CLINIC開院。