ウェルシュ菌食中毒とは?
「カレーは一晩寝かせるとおいしい」——そんな言葉を信じて作り置きをしたら、翌日にお腹の不調が…。
それはウェルシュ菌食中毒かもしれません。
名前はあまり知られていませんが、実は日本国内で報告件数が非常に多い食中毒の一つです。
特にカレーやシチューなどの煮込み料理、大量調理、作り置きや常温放置が大きなリスクとなります。家庭でも飲食店でも油断は禁物。ここではウェルシュ菌の特徴や症状、予防法まで詳しく解説します。
1. ウェルシュ菌とは?|どこにいて、なぜ食中毒を起こすのか
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は、土壌・水・ほこり・人や動物の腸内など、私たちの身近に広く存在する細菌です。
酸素の少ない環境を好むため、大鍋の底や密閉容器の中で増殖しやすいのが特徴。
さらに、この菌は「芽胞」という耐久性のある形に変化するため、加熱や乾燥にも強いのです。
75℃以上で加熱しても芽胞は生き残り、料理を放置すると再び増殖してしまいます。
特にカレー、シチュー、煮物、炒め物、炊き込みご飯、チャーハンなど、大量に作って冷めにくい料理で発生しやすく、学校や施設、飲食店での集団食中毒の原因にもなっています。
2. 主な症状と特徴|他の食中毒との違い
ウェルシュ菌食中毒は比較的軽症のことが多いため「ちょっとしたお腹の不調」と見過ごされがちです。
主な症状は以下の通りです:
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・下腹部の腹痛
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・水のような下痢
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・軽い吐き気(まれに嘔吐)
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・発熱はほとんどなし
発症は食品を食べてから6〜18時間後。突然の腹痛と下痢で始まり、通常は1〜2日で自然回復します。ただし、高齢者・子ども・持病のある方では脱水に注意が必要です。
特徴的なのは、体内で「腸管毒素(エンテロトキシン)」を作り出すこと。この毒素が腸を刺激し、下痢や腹痛を起こします。市販の下痢止めを自己判断で使うと、毒素が体内にとどまり症状悪化を招くことがあるため避けましょう。
3. 診断と治療のポイント|受診の目安
症状だけで特定するのは難しく、医師による問診や便検査が必要です。特に「同じ食事をした複数人に同様の症状が出ている」場合は疑われやすくなります。
治療の基本は自然回復を支えること。
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・経口補水液で水分・電解質を補う
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・安静に過ごす
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・重症例では整腸剤や点滴で対応
抗生物質は原則不要です。
受診の目安
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・下痢や腹痛が1日以上続く
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・嘔吐や吐き気が強い
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・発熱を伴う
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・複数人が同じ症状を訴えている
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・脱水(口の渇き・尿が出ない・フラつき)がある
大田大森胃腸肛門内視鏡クリニックでは、食中毒の診断・治療を行っています。受診の際は「何をいつ食べたか」「症状が出たタイミング」を伝えると診断がスムーズです。
4. 予防の基本は加熱と保存|家庭・飲食店での注意点
ウェルシュ菌は加熱に強いため、「加熱後の保存方法」が最大のポイントです。
家庭でできる対策:
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・調理後は鍋のまま放置せず、浅い容器に分けて冷ます
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・氷水や冷蔵庫を利用して素早く冷却
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・常温保存は2時間以内が目安
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・再加熱のときは全体を均一にしっかり温める(電子レンジのムラに注意)
飲食店や給食施設など大量調理を行う場では、HACCPに基づく衛生管理が必須です。
家庭でも「とりあえず鍋にラップして常温で放置」という習慣は危険です。特に夏場や梅雨時期は菌が繁殖しやすいため注意が必要です。
5. まとめ|おいしい食事を安全に楽しむために
ウェルシュ菌はどこにでも存在する細菌で、誰にでも感染のリスクがあります。
特に「加熱したから安心」と思い込みやすいカレーやシチューこそ、保存方法に気をつける必要があります。
腹痛や下痢が続いたら、軽視せず早めに医療機関を受診しましょう。正しい知識と工夫で、家族みんなが安心して食事を楽しめます。
監修医師 大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2020年10月大田大森胃腸肛門内視鏡クリニック開院、2024年12月東京新宿胃腸肛門内視鏡・鼠径ヘルニア日帰り手術RENA CLINIC開院。