「赤ちゃんのお腹や足の付け根がポコッと膨らんでいる…」そんな場面に気づいて心配になったことはありませんか?
おむつ替えのとき、泣いたとき、立ち上がったときに膨らみが出て、寝かせると自然に引っ込む。実はその症状は 子供の鼠径ヘルニア(いわゆる脱腸) かもしれません。
鼠径ヘルニアは小児外科でよく診断される病気ですが、一般的にはあまり知られていないため「このまま様子を見ても大丈夫?」「手術が必要なの?」と迷う保護者の方も多いです。
しかし、飛び出した腸が戻らなくなる 嵌頓(かんとん) という緊急状態に陥ると、命に関わる危険があり、迅速な治療が必要になります。ここでは、鼠径ヘルニアの原因や症状、見分け方、治療方法についてわかりやすく解説します。
1. 鼠径ヘルニア(脱腸)って何?原因と仕組み
鼠径ヘルニアとは、足の付け根(鼠径部)の部分にある通り道から腸などが袋状に飛び出してしまう状態です。
胎児期に存在する 腹膜鞘状突起 という通路が生まれた後も閉じずに残ることで起こります。
泣いたり力んだりして腹圧がかかると、腸の一部がその通路を通って外に飛び出してしまいます。
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・男の子に多いが、女の子にも起こる
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・100人に2〜5人程度と比較的多い
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・自然に治ることはほとんどない
典型的には「出たり引っ込んだり」を繰り返し、放置すると症状が進行していきます。
2. 子供の鼠径ヘルニアの症状・気づくサイン
親御さんが気づきやすいのは、足の付け根や陰部まわりの「ふくらみ」です。
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・泣いたとき・便をするときにふくらみが出てくる
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・寝ているときや落ち着いているときは引っ込む
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・膨らみを押すと中が戻ることがある
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・子供が不機嫌になったり泣いたりすることもある
診察時に膨らみが出ていないことも多いため、スマホで写真を撮っておくと診断の助けになります。
3. 嵌頓とは?危険性と見分け方
嵌頓とは、飛び出した腸が元に戻らず、出口で締め付けられてしまう状態です。腸の血流が悪くなり、壊死や腹膜炎を起こすこともあるため、 緊急手術が必要 になります。
【嵌頓のサイン】
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・膨らみが硬くなって戻らない
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・赤みや変色がある
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・子供が強い痛みで泣き止まない
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・吐き気・嘔吐・発熱がある
これらが見られたら、迷わずすぐに病院へ行ってください。
4. 鼠径ヘルニアの治療方法と手術の時期
自然治癒はほぼなく、根本治療は 手術のみ です。診断が確定したら、早期手術が推奨されます。
【手術法】
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・切開法(高位結紮法):1〜2cm切開し、ヘルニア嚢を根元で縛って切り取る
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・腹腔鏡手術(LPECなど):小さな穴からカメラで処置、傷が小さく整容性が良い
多くは全身麻酔で30分〜1時間程度、短期入院で回復することが一般的です。
5. 家でできるケアと保護者へのアドバイス
完全に予防することはできませんが、以下の工夫でリスクを減らせます。
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・便秘や咳など腹圧が高まる状態を避ける
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・泣かせすぎないよう工夫する
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・膨らんでいるときの写真を撮っておく
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・膨らみが戻らない・硬い・赤い場合はすぐ受診
鼠径ヘルニアは標準的に治療される疾患であり、手術をすればほとんどの場合は問題なく回復します。過度に不安にならず、正しい知識を持って医師に相談することが大切です。
まとめ
子供の鼠径ヘルニアは「赤ちゃんのお腹や足の付け根が膨らむ」症状で気づかれることが多く、自然に治ることはありません。
特に腸が戻らなくなる嵌頓は命に関わるため、早期に小児外科で相談・手術を検討することが重要です。
監修医師 大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2020年10月大田大森胃腸肛門内視鏡クリニック開院、2024年12月東京新宿胃腸肛門内視鏡・鼠径ヘルニア日帰り手術RENA CLINIC開院。