痔は、老若男女を問わず多くの方が悩む症状です。
長年痔の診療をしてきましたが、痔はよくある症状でありながら、正しい対策が知られていないと感じます。今回は、痔を悪化させないためにできる対策についてご紹介します。
衛生面における痔の対策
痔は肛門の症状ですから、不衛生にしていれば切れ痔の傷口から細菌が入り込むなど、悪化のリスクがあります。
清潔にすることがまず基本です。毎日シャワーで綺麗にするだけでなく、湯船に入って温めることも効果があります。血流がよくなり、いぼ痔や切れ痔の予防になります。ただし、痔瘻や肛門周囲膿瘍など、炎症が起きている場合には温めることが逆効果となるため、シャワーのみで十分です。
清潔にしようとして、ウォシュレットをやりすぎないように注意してください。洗いすぎは、乾燥からかゆみを招くこともあります。また、ゴシゴシ擦ってしまうことも、痔には悪影響です。ある程度濡らして、ぽんぽんと優しく拭き取るのがよいでしょう。
あまり水圧は強くせず、肛門の中に水を入れて浣腸のようにするのは避けましょう。刺激がないと便が出せないという悪循環に陥ってしまいます。
痔によって血液などが付着することもあるかもしれませんが、下着は常に清潔なものを身につけてください。
食事面における痔の対策
便通の状態は、体質的な問題もありますが、食事の影響を大きく受けます。
積極的にとりたいものは、食物繊維です。食物繊維は胃で吸収されずに腸まで届き、水分を吸って便を柔らかくしてくれます。便が硬いと切れ痔やいぼ痔の原因になりますので、便を柔らかめにするのは痔の対策の基本です。
食物繊維をとることで腸内環境も整いますので、葉物野菜や海藻、果物などを取り入れるようにしてください。
乳製品は、下痢になる体質の方は控えた方がよいですが、そうでなければ腸内環境の向上におすすめです。また、水分摂取量が少ない場合も便秘につながりますので、しっかり水分をとりましょう。
避けるべきものの代表は、辛いものとアルコールです。
辛いものは直接的に腸へのダメージとなり、下痢を誘発します。アルコールは、量が多いと消化管のダメージになるほか、血液がうっ滞することでいぼ痔の悪化に繋がります。
体への負荷に関する痔の対策
肛門を含めた全身の血流を良くすること、健康的な生活をして免疫力を維持することが大切です。具体的にいくつかご紹介します。
まず適度に体を動かすことが痔の発症・悪化予防のいずれにも有効です。デスクワークの方や運転手の方など、座りっぱなしは肛門周囲の静脈の血流悪化に直結します。
出勤で意識的に歩く距離を増やす、休日に運動するなど、意識して体を動かすようにしてください。
日本人に多い睡眠不足も、痔に悪影響です。睡眠不足は自律神経の不調を引き起こし、腸の動きをうまくコントロールできなくなります。便秘・下痢のいずれにもよくありませんので、しっかり体を休めましょう。
こちらのページでも詳しく解説しています。
市販薬による痔の対策
切れ痔であれば、ある程度市販薬でも対応できます。切れ痔は軟膏で治ることが多いので、ひとまず市販薬を試してみるというのも悪くはありません。
ただ、切れ痔であっても、軟膏以外の治療が必要な場合もあります。たとえば、肛門が狭いせいで切れ痔になっている場合には、少し括約筋を広げる処置をすることでよくなるかもしれません。
「出血がある=切れ痔」というわけでもないため、ご自身での判断は難しいです。
いぼ痔や痔瘻は軟膏では治らないため、「市販薬で様子を見ていたら悪化してしまった」ということも少なくありません。切れ痔だと思っていたら、大腸の病気で出血していたということもあります。
また、あまり知られていないことなのですが、じつは、痔は同時に複数種類あることが多いです。切れ痔だけ、いぼ痔だけというパターンはあまりないので、それぞれの痔に対して適切な対処をするというのが大切になります。
痔で受診すべきタイミングとは?
痔の治療は、痔の種類を見極める段階が最も重要です。そのため、症状からご自身で推測するのではなく、基本的には「痔かもしれない」と感じた段階で受診していただくのがよいだろうと思います。
恥ずかしさや忙しさを理由に我慢を重ねてしまっており、悪化した状態でやっと医療機関へ来るという方が非常に多いです。
肛門科にかかるのはハードルが高く感じるというのはよくわかります。ですが、悪化させて通院が長引いてしまうよりは、早めに適切な対処をして早く治してほしいというのが、医師としての思いです。
痔を疑った場合、緊急処置として市販薬を一時的に使うのはよいですが、長引いたり、繰り返したりするようであれば医療機関を受診しましょう。