1. アニサキスとは?魚にひそむ見えない危険
アニサキスは、主にサバ、アジ、イカなどの魚介類に寄生する白く細長い線虫です。この寄生虫は、魚の内臓や筋肉に潜み、生で食べた際に人の体内へと入り込みます。体内に侵入したアニサキスは、胃や腸の壁に噛みつき、激しい腹痛や吐き気を引き起こすのが特徴です。とくに港町など新鮮な魚を日常的に食べる地域では感染例が多く、全国で年間数千件の報告があります。
刺身や寿司といった人気の生魚料理には見た目ではわからないリスクが潜んでいます。安全な食習慣を身につけるためには、まずこの「目に見えない敵」について知ることが第一歩です。
2. 実際の症例に学ぶ:アニサキス症の苦しみ
アニサキスによる食中毒は、食後数時間で突然胃を刺すような激痛が起こることが多く、救急外来に駆け込むケースも珍しくありません。症状は、まるで胃潰瘍や急性胃炎のような痛みで、医師の診察を受けてもすぐには原因がわからないことも。
中には、胃内に5匹以上のアニサキスが寄生していた重症例もあり、アナフィラキシー反応を引き起こし、血圧低下や呼吸困難に陥るなど命に関わることもあります。こうした事例からも、魚介類摂取後の体調変化には十分な注意が必要です。
3. 内視鏡による迅速な診断と安全な除去
アニサキス症の診断と治療には「内視鏡検査」が非常に効果的です。
内視鏡を使って胃の中を観察し、寄生している虫体を発見したら専用の鉗子で摘出します。
虫は小さく見えにくいものの、経験豊富な医師が丁寧に確認することで、確実に除去することが可能です。アニサキスは胃酸に強いため自然に溶けることは少なく、放置すると症状が悪化する可能性もあります。早期の内視鏡治療こそが、痛みを和らげ、合併症を防ぐ最善の方法です。
4. 自分でできる!アニサキス予防の基本
アニサキス症の予防には、食材の正しい取り扱いが欠かせません。
以下の対策を心がけましょう:
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・魚を購入したらすぐに内臓を取り除く
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・マイナス20℃以下で24時間以上冷凍する
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・中心温度60℃以上で1分以上しっかり加熱する
「しめ鯖」や「炙り寿司」など、加熱が不十分な加工食品にもリスクは残っています。信頼できる店で調理されたものを選び、自宅で調理する際は十分な冷凍・加熱処理を徹底しましょう。
5. よくある誤解とアレルギーのリスク
「アニサキスが噛みつくから痛い」と思われがちですが、実は多くの場合、体がアニサキスに対してアレルギー反応を起こしているのです。このため、たとえ寄生虫が死んでいても症状が出たり、長引いたりすることがあります。
腸閉塞などの合併症に進行するケースもあるため、症状を甘く見てはいけません。抗アレルギー薬で様子を見る場合もありますが、確実なのは内視鏡で直接確認し、虫体を取り除くことです。不安な症状が出たら、できるだけ早く専門医を受診しましょう。
まとめ
「生魚を楽しむために知識と対策を」
アニサキス症は、刺身や寿司を楽しむ人なら誰もが遭遇する可能性のある食中毒です。生魚を安心して楽しむには、正しい知識と予防の意識が必要です。
体調に異変を感じたら、自己判断せずに早めの受診を心がけましょう。当院では、内視鏡による迅速な診断と治療に対応しています。お腹の痛みや不安があれば、どうぞお気軽にご相談ください。
監修医師 大柄 貴寛
国立弘前大学医学部 卒業。青森県立中央病院がん診療センター、国立がん研究センター東病院大腸骨盤外科など、日本屈指の高度な専門施設、クリニックで消化器内視鏡・外科手術治療を習得後、2020年10月大田大森胃腸肛門内視鏡クリニック開院、2024年12月東京新宿胃腸肛門内視鏡・鼠径ヘルニア日帰り手術RENA CLINIC開院。